STEP1からSTEP5を経て、ストレッチトレーナーとして必要な技術及び知識の重要性、そしてクライアントとのコミュニケーション力の磨き方について説明しました。これらは、クライアントの体はもちろん心に対しても大きな影響を与え、主訴に対する本質的な改善を実現するために不可欠です。
STEP6の本章では、これまでの学びを踏まえ「ストレッチトレーナーとして成功するために持つべき心構え」について考えていきます。
心構え⑴「自己研鑽」を怠らない
「継続は力なり」という言葉がありますが、これはストレッチトレーナーにとって非常に重要な心構えの一つです。
これまで述べてきた「技術を磨くこと」、「解剖学の知識を深めること」、「コミュニケーション能力を高めること」、これら全てにおいて終わりはありません。どこまでも突き詰めることができるのです。
常にこれらの学びを深めながらアップデートし、継続的に研鑽を重ねる姿勢は自身の市場価値向上はもちろん、何よりクライアントと信頼関係を強固なものとするためにも非常に重要です。そして、それはそのままクライアントの身体に大きな変化をもたらす結果へと直結します。
心構え⑵「想像力」を極限まで高める
ここで言う「想像力」をもう少しわかりやすく言い換えると、クライアントの真のニーズを深く理解する、とも言えます。
クライアント一人一人が抱える主訴、つまり悩みや目標は多種多様。慢性痛を改善したい方、ダイエットを成功させたい方、スポーツパフォーマンスを向上させたい方もいれば、心身のリフレッシュのためにお越しいただく方まで、ストレッチを受けに来られる理由は様々です。
クライアントの言葉を理解するのは当然、その言葉の裏に潜んでいる真の思いを把握して差し上げることが重要。
その真の思いは、場合によってはクライアント自身も気付けていない可能性も往々にしてあります。しかし、クライアントがご自身の真の思いを自覚・未自覚かを問わず、それを言語化し共有すること、そしてその主訴を改善することで得られる未来をできるだけ具体的にイメージさせてあげること。
それが、ストレッチに対するモチベーション向上と身体の改善効率の最大化に繋がるのです。
では具体的に何をすれば良いのか?ここでのポイントは3点。
傾聴、共感、仮説、です。
「想像力」を極限まで高めるために必要なポイント①傾聴
「想像力」を極限まで高めるために必要なポイントの1点目は、傾聴です。
傾聴という言葉の定義としてよく言われるのは、「聞く」(hear)ではなく、「聴く」(listen)、であるということ。つまり、受動的ではなく能動的な聴く姿勢が傾聴にあたります。
そして、これを”ストレッチセッション中に必要な傾聴”に解像度を上げると、クライアントの言葉の背景にある思いを先読みし、それを自分の言葉で確認することと言えます。
例えば、「腰が痛くて..」と腰痛を訴えるクライアントがいたとします。その際、私はこのような流れで傾聴します。
①【痛みの確認】どこがどう痛む?どんな動きで痛みが出る? ▶︎どのような影響が出ているか
②【原因の確認】いつから?思い当たる原因は? ▶︎身体的に腰に負担がかかる機会はあったか
③【背景の確認】仕事の忙しさは?身辺状況で心の負担になることはあったか? ▶︎精神衛生面に問題はないか
これらを親身に聴くことで、高い確率でクライアントはこの主訴を取り巻く状況を細かく教えてくれるものです。
この時のポイントは、決して一つの事象から下手にコチラ側からアドバイスを差し上げようとしないことです。こちらの意見はここでは不要、まずは傾聴することのみに集中することが重要です。
「想像力」を極限まで高めるために必要なポイント②共感
「想像力」を極限まで高めるために必要なポイントの2点目は、共感です。
クライアントは大切な時間とお金を使って、あなたのストレッチを受けるための時間を捻出してくださっています。
期待されている内容は各々ではありますが、まずは当然主訴、ここでは腰痛を改善したいという思いが一番。そして、それと同じくらい、精神的な安心を必要としている方も多いというのが、私がこれまで11年以上に渡ってストレッチトレーナーをやってきて思う見解です。
つまり誤解を恐れずに言うと、クライアントは必ずしも腰痛を除去するための正論のみが欲しいわけではないのです。
腰痛は非常に強いストレスを生みます。ほぼあらゆる動作において痛みが伴い、睡眠の質低下や疲労回復の非効率化に繋がる例も。
更には腰をかばうことで姿勢不良を生じさせ、そこから肩コリや膝痛など他の疼痛へ波及するリスクも高めてしまうのです。
こういった肉体的な負担は精神的にも非常に大きなストレスへと繋がります。
そんな時に、「あなたのこの姿勢が悪いのですよ」、「毎日ストレッチをしないから痛みが出るのですよ」など、頭ごなしに原因を挙げてもそれは改善に向けた建設的なコミュニケーションには繋がりません。
まずは、クライアントの現状を理解し、それに伴う不便さや不都合、痛みや辛さを共感することが非常に大切です。
想像してください。あなたが体調が悪くて病院に行った時、何も聞かずにただ痛み止めを出す医者、もしくは「それはあなたの生活習慣のせいです」と否定だけしてくる医者、それが実際には正しかったとしても、あなたはその医者の所にまた行きたいと思いますか?私は思いません。
一方、このように聴いてくれたらどう思いますか?
「お忙しい日々が続いているのですね、そこに更に体調不良まで重なってしまい、とても辛い状況だと思います。何か免疫力が下がってしまうようなことはありましたか?ああ、そうでしたか。〜〜」
もちろん、医者が診る患者数を考慮すると一人一人にここまで丁寧に対応はできないと言う意見もわかります。
それでも、理想は一人一人の容態はもちろん、感情に寄り添ってくれる人に自分の身体を任せたいと思いませんか?
だからこそ、私はまずは共感することを重要視しています。
「想像力」を極限まで高めるために必要なポイント③仮説
「想像力」を極限まで高めるために必要なポイントの3点目は、仮説。厳密に言うと、仮説と実証です。
あなたがクライアントに対し、どんなに傾聴の上共感しても、身体に変化が出なければそれは一流のストレッチトレーナーとは言えません。
一方、あなたがどんなに高いストレッチ技術を持っていたとしても、仮説なしにただ闇雲にクライアントにストレッチをかけても、本質的な身体の改善や変化には繋がりません。
「想像力」を高めるために、何が必要なのか?
最後のピースは”仮説と実証”です。
具体的には、「なぜ左腰背部に腰痛が出ているのか?」、その原因に対し仮説を立てるのです。
よくあるケースとしては、以下が挙げられます。
立位で右に重心が偏っている
↓
骨盤(腸骨)が左高位になっている
↓
左腰背部に圧縮が発生 ▶︎これが主訴
↓ 更に見ていくと..
バランスを維持しようと右肩が高位になっている
↓
右肩甲帯にも筋収縮が発生
↓
頭部はやや左に傾きがあり
↓
…..
このように、一つの主訴から様々な仮説が立てられます。
仮説が立てられたら、次はその実証、つまり仮説に基づきストレッチをかけていくのです。
そして、仮説が立証されれば更にそこからストレッチのステップを進める。もし仮説が違っていれば、ストレッチの手技や部位を軌道修正し、再度仮説を立て直す。
文章にすると長く見えますが、実際には上記の流れを2〜3秒の間で頭で整理し、クライアントの身体を触診しながら実践していきます。
本章の目的は「ストレッチトレーナーとして必要な心構え」なので、実際の細かいストレッチの技術にまでは言及しません。(技術にまで言及すると、それだけで別のブログが書けてしまうほどのボリュームになってしまうので)
心構え⑶「フィードバック」を重視する
上記の通り、クライアントとのセッションを行った後、それで終了ではありません。
普段何を意識すべきか?どのようなセルフケアを行うべきか?などの、アドバイスをして差し上げることが非常に重要です。
あなたのストレッチを受けた後は、身体は少なくとも受ける前よりは楽になっていると思います。
しかし、大切なのはあなたの”ストレッチを受けに来る日以外”の過ごし方なのです。
左の腰背部痛が主訴であるクライアントに対し、根本原因がどこにあるのかを共有する。そして、その根本原因を除去するためには何が必要なのかをアドバイスして差し上げる。
例えば、上記の例で言えば以下のアドバイスが考えられます。(もちろん、これはあくまで例なので、必要なアドバイスは千差万別異なるという前提です)
アドバイス① 立位での重心は右に偏っているので左に逃がしましょう。
アドバイス② 右脚部後面と左腰背部の柔軟性が低いので、ハムストリングスと腰方形筋にセルフストレッチを行いましょう。
※基本的にアドバイスはできれば1つ、多くても3つ以内が望ましいです。多過ぎると逆に行うハードルが高まり非効率になることもあるので、クライアントの性格やモチベーションを踏まえて調整することが望ましいです。
ストレッチを受けた後は身体が楽になったとしても、その主訴を生んでいる根本原因を取り除いてあげなければ、またすぐに再発してしまいます。
よって、先に述べた通りクライアントが”ストレッチを受けに来る日以外”の過ごし方を変えていただけるように先導して差し上げることが、主訴の根本改善には重要です。
心構え⑷「感情」に寄り添う
最後の心構え、それはクライアントの感情を大切にすることです。
前章でも触れた通り、人間は感情で動きます。
特に、身体の痛みや悩みを持っており、それを改善したいと言う思いであなたの所に来ているクライアントであれば尚更です。
時には、クライアントが抱えるストレスや不安、悲しみなどの感情を汲み取り、寄り添うことがマンツーマンで行うパーソナルセッションでは非常に重要です。
精神的な側面からもクライアントを支えること、この意識が信頼関係の構築を助け、結果的に肉体的な主訴の改善へと導くことができます。
まとめ
一流のストレッチトレーナーになるには、常に自分を磨き、相手ファーストの発想が必要。クライアントに対し、正論を振りかざすことだけでは本質的な改善には繋がらない
心構え⑴「自己研鑽」を怠らない
常に知識と技術をアップデートし、今より更に良くするにはどうすべきかを考える
心構え⑵「想像力」を極限まで高める
傾聴、共感、仮説と実証を繰り返し、クライアントの本質的なニーズを把握する
心構え⑶「フィードバック」を重視する
クライアントが”ストレッチを受けに来る日以外”の過ごし方が主訴の根本改善には重要。何をしていただくべきかを具体的に明示する
心構え⑷「感情」に寄り添う
人間は感情で動く。クライアントが抱える精神的な背景にも想像を巡らせ、気持ちを最優先にしたコミュニケーションを行う
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いよいよ次回は最終章です。
ストレッチトレーナーの使命、そして身体を変える喜びを共有する意義について、私の信念である「人が希望を感じる機会の創出」に沿って、掘り下げていきましょう。